隊商の記憶を岩肌に残す、薔薇色の砂岩に彫り抜かれた峡谷の都。
シークと呼ばれる狭い裂け目を抜けると、ファサードが朝日を浴びて立ち上がる。
ナバテア人が2000年前に遺した、岩と陽光の劇場である。
アジア
ヨーロッパ
イタリア半島の踵に近い高原に、灰色の円錐屋根が密に連なる小さな町がある。
南の日射しが白壁を温め、石畳の細い路地に乾いた風がゆるく抜けていく。
16世紀の人々が積み上げた石組みが、家々のかたちのままいまも息づいている。
ロワール川流域の樹海の奥に、幻想的な姿で立ち上がる巨大な城が現れる。
白い石灰岩の壁が陽を受け、塔群の影が屋根の上で時刻を刻んでいく。
16世紀の王が森の獣を追って築かせた、空想と威光の積み重なる城館である。
北イタリアの空に、淡い灰の岩壁が鋸の歯のように連なっている。
足元には牧草地と教会の尖塔が広がり、上空には太古の珊瑚礁の記憶が立つ。
夕日に染まれば、岩肌は薔薇色に焼け、淡き山々と呼ばれてきた。
カルスト台地の谷底に、16の翠玉色の湖が段をなして連なっている。
苔と藻が水中に石灰華の堰を編み続け、新しい滝がいまも音を立てて立ち上がる。
水と植物と時間が、自らの手で造形を重ね続ける生きた地形である。
群青のエーゲ海へゆるやかな半月形に切れ込む、深く沈んだ太古の火口跡。
崖の頂に白い箱形の家が積み上がり、その間に蒼い教会堂が点々と覗く。
陽が海へ傾くたび、家々の白壁は金から薔薇色へと音もなく染め変わる。
北アメリカ
アリゾナ高原の地表に開いた、人ひとり分の細い裂け目。
鉄砲水が砂岩に彫り込んだ壁面を、頭上の光が一筋に貫いて落ちる。
地下に閉じた光と岩肌だけが満たす、ナバホの聖なる回廊である。
北米大陸の屋根に沈黙して横たわる、青緑の湖と亜寒帯の針葉樹林。
氷河の融け水が岩の粉を運び、湖面の色をやわらかく澄ませていく。
カナダが自らの名で最初に守ると定めた、北のロッキー山脈の一画である。
大地が裂けて開いた、深さ1600メートルに及ぶ赤褐色の谷。
コロラド川が幾層もの岩を刻み続け、地球の時間が断面に並ぶ。
20億年の堆積を一望に収める、北アメリカの巨大な裂け目である。
シエラネバダの深い山懐に、灰白色の断崖が巨大な谷を取り囲んでいる。
雪解けの水は岩棚から放たれ、数百メートルの瀑布となって谷底へ落ちる。
氷河が彫り残した広大な空洞に、光と水の動きだけが充ちている。
アフリカ
砂漠の南端、ナイルが堰き止められた湖の岸辺に、岩壁ごと刻まれた王達。
乾いた風が砂粒を巻き上げ、朝の光が巨像の輪郭をゆっくりと浮かべていく。
3000年の沈黙を纏い、ヌビアの陽射しに灼かれ続ける石の意志。
ナイルを境に、神殿の岸と王墓の岸が向かい合う古都。
朝日は東岸の列柱を貫き、落日は西岸の谷へとゆっくり沈んでいく。
かつて栄華を極めた都テーベが、幾千年の時を石のなかに眠らせている。
モロッコの南東、大砂海の縁に赤い砂丘がそびえる無音の地。
風が稜線の砂を細く流し、朝夕の光が起伏を橙と影に塗り分けていく。
隊商の踏み跡も星のめぐりも呑み込んで、砂だけが静かに横たわる。
アフリカ大地の裂け目に、川そのものが落ち、雷のような響きが立ち昇る。
立ち上がる白い噴霧は数百メートルの高さに達し、地上に逆さの雨を降らせている。
土地の人々はこれを古くからモシ・オ・トゥニャ、雷鳴轟く煙と呼んできた。
オセアニア
南太平洋にゆっくり沈みゆく火山を、珊瑚の輪がそっと囲む。
砂底の浅瀬から外洋へ、淡い碧から深い藍へと水の色が移ろう。
緑の峰と凪いだ潟、慎ましい人の営みが薄く重なる遠い環礁である。














