アンデスの尾根に石組のまま残された、雲上の小さな都。
霞が麓から立ち昇り、段々畑の縁を撫でて稜線を渡っていく。
インカが15世紀に標高2400メートルの稜へ刻んだ、石と空のあいだの場所である。
南アメリカ
どの大陸からも遠く隔たった、南太平洋にぽつりと浮かぶ火山島。
絶えず吹き渡る潮風が草の斜面を撫で、巨像の肩を静かに洗っていく。
海に背を向けた石の人影だけが、忘れられた時間をそのまま留める地である。
アジア
隊商の記憶を岩肌に残す、薔薇色の砂岩に彫り抜かれた峡谷の都。
シークと呼ばれる狭い裂け目を抜けると、ファサードが朝日を浴びて立ち上がる。
ナバテア人が2000年前に遺した、岩と陽光の劇場である。
クメール王朝が密林の只中に築いた、石造りの宗教都市。
朝靄が環濠を低く撫で、5本の尖塔が水面にもうひとつの姿を結ぶ。
600年の信仰と、それを抱き返した熱帯の時間が、いまも同じ岩の上に重なっている。
ジャワ中部の盆地に屹立する、石を積み上げた巨大な曼荼羅。
朝霧が裾野を低く埋め、釣鐘型ストゥーパの群れだけが空に残る。
シャイレーンドラ朝が9世紀に石の幾何へ写し取った、仏教宇宙の縮図である。
チャオプラヤーの川中州に、煉瓦と仏塔の影だけが残された古都。
朽ちた寺院の列を、乾季の白い光と雨季の蒸気が交互に洗っていく。
シャム王朝が4世紀かけて積み、一夜のうちに焼け落ちた都の余韻である。
北アメリカ
ユカタンの乾いた石灰岩平原に、四角い影を落として立つ石の聖都。
春と秋の夕、傾いた光が階段の縁をなぞり、蛇の影が地へ降りていく。
天文を石に刻んだマヤの祈りが、1000年を越えていまも静まり返る。
アフリカ
砂漠の南端、ナイルが堰き止められた湖の岸辺に、岩壁ごと刻まれた王達。
乾いた風が砂粒を巻き上げ、朝の光が巨像の輪郭をゆっくりと浮かべていく。
3000年の沈黙を纏い、ヌビアの陽射しに灼かれ続ける石の意志。
ナイルを境に、神殿の岸と王墓の岸が向かい合う古都。
朝日は東岸の列柱を貫き、落日は西岸の谷へとゆっくり沈んでいく。
かつて栄華を極めた都テーベが、幾千年の時を石のなかに眠らせている。








