2026年8月26日の朝、ネパール北部ラスワ郡と中国チベット自治区の国境地帯を襲った大規模な洪水と土石流から、2週間が経ちました。発生直後は「数百人」と伝えられた被害は、集計が進むにつれてネパールで近年最悪の規模であることが明らかになり、政府は9月7日を国民哀悼の日と定めました。亡くなられた方に深く哀悼を捧げ、いまも安否の分からない方々のご無事を祈ります。
この記事では、当局の公式集計をもとに被害の全容を整理したうえで、チベット国境、ランタン方面、カトマンズとポカラを結ぶ幹線という3つのルートの現況と、秋の旅を控えている方が判断に使える情報をまとめます。一次情報はネパール当局・外務省・大使館の発信が正となります。本稿はその入口です。
被害の全容 — 2週間で分かったこと
ネパール内務省と国家災害リスク軽減管理庁(NDRRMA)が9月10日午前に公表した集計では、ネパール側の死者は1,377人、行方不明者は5,130人にのぼります。行方不明者の数は身元が確認された遺体を差し引きながら日々改訂されており、そのうち外国人は587人です。救助された人は13,656人、捜索と救援には2万1,000人規模の治安要員が引き続き投入されています。中国側のチベット自治区でも死者43人、行方不明519人が伝えられています。日本の報道各社も同じ当局集計を引いており、数字は今後も動く前提で受け取ってください。
被害はラスワ郡の国境の町ラスワガディからトリスリ川に沿って約70キロにわたる集落に及び、ヌワコート郡・ダーディン郡でも多くの犠牲が出ました。ネパール外務省が9月6日に公表した暫定の被害評価では、住宅7,570棟、道路55キロ、車両が通れる橋37か所と吊り橋68か所、水力発電所13か所(合計783メガワット分)が被害を受けています。原因については、米国地質調査所(USGS)などの分析で、ランタン山群の高所で氷河を巻き込んだ大規模な崩落が起き、氷と岩が支流に流れ込んで濁流となって下ったとする見方が定着しています。
救助活動は続いています。ネパール外務省の9月6日の発表では、発生から9日目と10日目にあたる9月4日と5日にも、水力発電所のトンネルから3人が生きて救出されました。当局はこうした例を踏まえ、トンネル内に取り残されたとみられる作業員の捜索を、インド・中国・韓国の専門チームとともに続けています。ネパール政府は9月上旬、捜索と並行して復旧・復興の段階へ移る方針を示しており、被災地には日本を含む30か国以上と国際機関から支援が寄せられています。
日本人の安否と日本政府の対応
発生直後から連絡が取れていない日本人5人については、9月10日時点でも安否が確認されていません。5人は家族とみられ、8月26日の朝に中国側から国境を越えた直後、ネパール人運転手とともに消息が分からなくなっています。行方不明の外国人約600人のなかに、この5人が含まれています。
日本政府は、外務省の海外緊急展開チームを現地に派遣して大使館とともに安否確認にあたっているほか、ネパール外務省の発表によれば、遺体の身元確認を支援する法医学の専門チームも日本から派遣されています。ネパール警察は、行方不明者の家族からDNA試料の提供を受けて身元確認を進める体制を整えており、外国人の家族については各国の大使館を通じた手続きが案内されています。ご家族・ご友人と連絡が取れない場合の相談先は、後の節にまとめました。
ルート別の現況 — 国境・ランタン・カトマンズ〜ポカラ
- チベット国境(ラスワガディ〜ギロン)は今季の再開見通しがありません。国境の橋・検問所・税関はいずれも失われ、ネパール道路局によれば、ベトラワティからラスワガディまでの約42キロは多数の地点で道路そのものが流失しています。カトマンズからカイラス山へ向かう唯一の陸路にあたるため、陸路経由の巡礼・周遊ツアーは行程の組み直しが前提です
- ランタン谷・ゴサインクンド方面の玄関口シャブルベシへの道路も、車両では到達できません。トレッキングルート自体の被害は報告されていませんが、入山のためのアクセス道路が損壊しています。ネパールのトレッキング業協会(TAAN)が示している当面の代替ルートは、カトマンズ東郊のスンダリジャルからヘランブ地方を経てゴサインクンドへ登り、ランタン谷へ抜ける行程で、従来より日数がかかります
- カトマンズとポカラを結ぶプリトビ・ハイウェイは、クリシュナビール地区の約300メートル区間が8月30日の崩落以来、通行止めのままです。洪水でトリスリ川の水位が上がり、道路の下部が削られたことが原因です。車両はヘタウダ経由の迂回路を使っていますが、大型バスや貨物車には向かず、ポカラの観光バス約150台が運休する一方、カトマンズ〜ポカラ便の航空旅客は3倍近くに増えました。道路局は仮設の迂回トラックを掘削中で、既存道路の復旧可否を9月中旬までに判断するとしています。首相は9月中の再開を表明していますが、確定ではありません
- トリブバン国際空港(カトマンズ)と国内線は通常どおり運航しています。ポカラへは空路を使えば影響を受けません。エベレスト街道、アンナプルナ、マナスル、ムスタンなど今回の流域から離れた山域では、直接の被害は報告されていません
秋のトレッキングと巡礼ツアーへの影響
- ランタン・ゴサインクンド方面を10〜11月に予定している方——出発の2〜3週間前にアクセス道路の復旧状況を旅行会社・トレッキング会社に確認し、ヘランブ側からの迂回ルートに切り替える場合は日数の追加を見込んでください。9月中の出発は、別の山域への変更を含めて検討するのが現実的です
- カイラス山・マナサロワル湖へ陸路で向かう巡礼ツアー——ギロン国境経由の行程は今季は成立しない前提です。催行会社によっては、カトマンズからラサへ空路で入る行程への振替を案内しています。振替の可否と費用は申し込んだ会社の判断になります
- ポカラ、アンナプルナ方面、チトワン——カトマンズからは陸路でなく空路を選んでください。現地の旅行会社も当面は空路への切り替えを勧めています
- ネパールは例年9月までがモンスーン期で、10月に入ると天候が安定して秋の最盛期を迎えます。今回の被災流域を除けば、山岳観光の受け入れ自体は続いています。ただし観光地では渡航見合わせが広がっており、宿泊や航空券は例年より取りやすい一方、現地の旅行会社の体制も影響を受けているため、連絡は早めに、確認は出発直前にもう一度行ってください
現地に滞在中の方・ご家族が渡航中の方へ
現地に滞在中の方は、当局・宿・ツアー会社の指示に従い、ラスワ郡をはじめとする被災流域へは近づかないでください。そのうえで、以下の窓口を控えておいてください。
- 緊急番号:警察100/消防101/救急102。救急102はNGO「ネパール救急車サービス」の番号で、外国人は無料・英語可(カトマンズ市内中心)です。カトマンズにはツーリストポリス1144もあります。受診の入口や大使館の連絡先は海外で体調を崩したら(ネパールの節)と日本大使館・領事館(ネパールの節)にまとめています
- 在ネパール日本国大使館(カトマンズ):+977-1-4426680。邦人向けの安全情報・安否確認の窓口となります。滞在中の方は、たびレジ(3か月未満)または在留届の登録を済ませておくと、緊急時の情報配信と安否確認の経路になります
- ご家族・ご友人が渡航中で連絡が取れない場合は、ツアー参加なら、まず申し込んだ旅行会社の緊急連絡窓口へ。あわせて在ネパール日本国大使館、または外務省領事局(海外邦人の安全に関する相談窓口)に相談できます。ネパール警察による遺体の身元確認(DNA照合)への協力も、大使館を通じて案内されます
- 旅先で災害に遭ったときの行動の順と、大使館・保険・旅行会社の役割分担、旅程の組み替えと費用の扱いは海外で被災したときはにまとめています
これから渡航を予定している方へ
- 予約済みのツアーがある場合——カイラス方面・ランタン方面など被災流域に関わる行程は、催行可否と行程変更を旅行会社の案内で確認してください。会社発表と、外務省海外安全ホームページのネパールの危険情報・スポット情報が判断の土台になります。外務省はラスワ郡の洪水についてスポット情報を出しています
- 個人手配の場合——ラスワ郡(ランタン・ゴサインクンド・チベット国境方面)は当面立ち入れないものとして扱い、カトマンズ〜ポカラは空路で組んでください。陸路国境や山岳道路を含む行程は、出発直前にもう一度確認するのが確実です
- 海外旅行保険は、治療・救援費用の補償内容を確認して加入してください。山岳地帯では救助・搬送に大きな費用がかかることがあり、救援者費用の補償が支えになります
- 出発前の確認先を1つに絞るなら、外務省海外安全ホームページのネパールのページです。あわせて、たびレジ登録と大使館発信の確認をおすすめします
参考情報
- ネパール 危険・スポット・広域情報(外務省 海外安全ホームページ)
- たびレジ(外務省 海外旅行登録)
- 在ネパール日本国大使館
- Daily Situation Update on Bhote Koshi River Floods(ネパール外務省・2026年9月6日)
- Bhote Koshi flood death toll reaches 1,377; more than 5,100 remain missing(Nepalnews・2026年9月10日)
- ネパール土石流2週間、5600人以上不明 日本人家族も消息分からず(日本経済新聞・2026年9月10日)
- Nepal to observe national mourning for Bhotekoshi flood victims Sept 7(The Himalayan Times)
- The ‘all-weather’ Rasuwa-Kerung route is no more(The Kathmandu Post・2026年8月31日)
- Tunnels and bridges emerge as options to bypass treacherous Krishnabhir(The Kathmandu Post・2026年9月9日)
- Prithvi Highway collapse leaves Pokhara’s tourist buses idle as air traffic soars(The Kathmandu Post・2026年9月6日)
- Krishnabhir section of Prithvi Highway will be operational within this month: PM Shah(Radio Nepal・2026年9月2日)
- TAAN Trekking Safety Status 2026: Route-by-Route Update After Rasuwa Flood(現地トレッキング会社によるTAAN案内のまとめ)
- 2026 Nepal Debris Avalanche and Flash Flood(U.S. Geological Survey)