アドリア海に向かって張り出した、白い石灰岩の城壁都市。
陽光は石畳を磨き、潮風が狭い路地と尖塔の間を吹き抜けていく。
自由を国是に掲げた中世の自治都市が、海と空の青を背負って今も静かに立っている。
城壁に守られた自治
7世紀、岩礁の上に避難した人々が交易の拠点を築き、やがてラグーザという独立都市国家へと成長していく。地中海と東方を結ぶ船団を抱える小さな共和国は、ヴェネツィアやハンガリーの宗主を経ながらも、自治の実を長く保ち続けた。
街の周囲を巡る石壁は全長およそ2キロメートル、高さは最大で25メートルに及ぶ。塔と稜堡が要所を固め、内側には石造の家々が密に詰まる。外と隔てる厚い線そのものが、この街の自治を物理的に支えてきた条件である。
石に刻まれた節度
大通りストラドゥンの石灰岩は、何百年もの靴底に磨かれて鏡のような艶を帯びている。両側に並ぶ家々は高さも開口部も揃えられ、宮殿でさえ過度な装飾を持たない。富を誇示するより共同体の均衡を保つことが、街の規範とされていた。
フランシスコ会修道院には14世紀から営まれる薬局が今も残り、聖ヴラホ教会には街の守護聖人が手のひらに城壁の模型を載せて立つ。「リベルタス」、自由の一語を旗印にしてきた都市の矜持は、石と祭具のあいだに静かに分け持たれている。
城壁の上を歩く
城壁の歩道を一周すれば、視界はたえず街と海のあいだを行き来する。内側を見下ろせば赤い瓦が幾何の連なりとなって伏し、外へ目を移せばアドリア海が青の濃淡を重ねて広がる。足元の石は乾いて温かく、潮の匂いがゆるく襟元を撫でていく。
朝は港の漁船が動きはじめ、昼の白壁が影を短く刈り込む。夕刻になれば、屋根は赤錆色から葡萄酒色へと沈み、やがて灯火が石壁の輪郭をぽつりぽつりと縁取り始める。日の運びとともに街は何度も色を変え、その推移を石が静かに引き受けている。